「SF 特攻空母ベルーガ(16 ビット版)」インタビュー
「SF 特攻空母ベルーガ(16 ビット版)」が PlayStation 4/3「龍が如く0 誓いの場所」のコンパニオンアプリ(本編とは別の携帯端末向けの連携アプリ)、PlayStation Vita「龍が如く0 基本無料アプリ forPlayStation Vita」にゲーム内追加コンテンツとして収録された。
そこで、制作に携わったエムツーの堀井社長、松岡ディレクターにインタビューをお願いすることとなった。「特攻空母ベルーガ」はるつぼゲームワークスの T.MATSUSHIMA(松島 徹)氏が8ビット版から16ビット版までを手かげた、横スクロールロボットシューティングゲーム。本作が収録されることになった経緯から、松島氏の人物像、本作とエムツーの関わり、16ビット版の内容についてなど、多岐にわたってお話いただいた。
(インタビュアー 佐伯憲司)
エムツーとるつぼゲームワークスの夢のタッグ! で開発された「ベルーガ」
――なぜ今回、「ベルーガ」(16ビット版)が「基本無料アプリ」に収録されることになったのでしょうか?
「SF 特攻空母ベルーガ(16ビット版)」
堀井氏: まず、1988年という舞台設定の「龍が如く0」の本編に、ゲームセンター「ハイテクランドセガ」が再現されて、「スペースハリアー」や「アウトラン」、「ファンタジーゾーン」、「スーパーハングオン」などが遊べる、という話があり、弊社がその移植部分を担当することになったというのがきっかけですね。
それに加えて、前作「龍が如く 維新!」からセガさんはPS Vita向けに基本無料アプリをリリースされていて、「龍が如く0」でも配信されることになり、その中に「メガドライブのタイトルを入れよう!」という話があったんですよ。それで、「メガドラのゲームは何本ぐらい入れられますかね?」といった相談をしている中で、セガにPC-6001がものすごく好きなプログラマさんがいらして……伊東さんと言う方なんですが……。「自分がもし自由に仕事ができるなら、エムツーにゲームを作ってもらうことと、T.MATSUSHIMA(松島 徹)さんと一緒に仕事がしたい」と。その伊東さんが「堀井さん、『ベルーガ』(8ビット版「特攻空母ベルーガ」)なんてどうですか? 『ベルーガ』には16ビット版がありましたよね? あれをやりたい」と言ってくださって。
当然、うちもやりたいな、と思っていたのですが、「まさかそんな話をしてもいいのか」と(一同笑)。そこから、「松島さんに連絡をとってもいいですか?」ということで話がスタートしたんです。
でも、当時はセガ社内でも「ベルーガ」の16ビット版どころか、「ベルーガ」自体の存在もまだ知られていなかったんですよ。「なにそれ?」というレベルで。そこから、多分伊東さんが社内で調整してくださって……おそらく自分のメンツをかけて……「ベルーガ」の収録が決まりました。
――エムツーさんと松島さんのつながりってどういった経緯で?
堀井氏: もともと、うちの松岡が松島さんと同じ中学の同級生で、以前同じ会社(ゲームのるつぼ)でお仕事させていただいていた時期がありまして。当時、松岡がネット経由でうちに仕事の依頼をしてきて。その後、松岡はうちに入ることになるんです。その後、私も松島さんと別の仕事でお会いする機会があって……という流れですね。
――なるほど……先ほどのお話で気になったことなんですが、「ベルーガ」は松島さんがPC-6001の25周年記念ということで、PC-6001の実機やWindowsで動くものを個人的に制作して配布されていたものですよね(8ビット版)。それに16ビットマシンで動くことを想定した別のバージョンがあったんですか?
8ビット版
16ビット版
堀井氏: 松島さんってお茶目な方なので、Windows上で動く16ビット版を当時、すでに作られていて、知人向けにこっそり見せていたらしいんですよ。僕もその流れで16ビット版の存在を知ったんですが、それを見た方からも「堀井さん、これが世に出ないのはおかしいじゃないですか!」と言われたり。……それがなかったら、今回のPS Vitaのアプリに収録するという話は出なかったと思いますね。
――松島さんが個人でもう16ビット版まで手がけてらっしゃったんですね。
松岡氏: そうですね。作ってましたね。
――それでエムツーさんから松島さんに「ベルーガ」の収録の話が伝わったという。
堀井氏: 伊東さんが「堀井さんからぜひ連絡を取っていただいて、収録できるようにしましょう」という話になりまして。
松岡氏: 2014年の夏ごろ、お盆ごろの話ですね。
堀井氏: 松島さんからは、「ホントに出るの?」ってずっと言われてたよね。2014年の年末あたりまで(笑)。
松岡氏: 開発バリバリ進めながら、そういうことを言うんです。
――なるほど。オリジナルとなるPC-6001版は2007年に配布されたんでしたよね。
松岡氏: 7年前ですね。
――その会話の流れでいうと、伊東さんはよく「ベルーガ」のことを覚えていらっしゃいましたね。
堀井氏: PC-6001ユーザーの界隈では、「ベルーガ」は最新作ですから(一同笑)。私もPC-6001ユーザーさんから16ビット版の話を伺って、見せていただきました。
――確かに。収録が検討されていた時期の段階で、16ビット版は、もう出来上がっていたんですか?
堀井氏:今回の基本無料アプリとはまた違うんですが、かなり出来上がっていましたね。同じなんだけれど違う。そのころは演出とかも全然入っていなくて、もっとシンプルな形。
――8ビット版を移植した感じだったんですか?
ビジュアルなど16ビットマシンを想定してパワーアップしている16ビット版。
堀井氏: 移植して、パワーアップしたものになっていたんですが、16ビット版はそこからさらにすごいものになってますね。
松岡氏: ……実は、今回の16ビット版に至るまでには、もう1作、間に32ビット版というものが存在するんですよ。PC-6001向けの8ビット版のあと、最初の16ビット版があって、次に32ビット版へと発展しました。その32ビット版を経て、再び16ビット向けに作り直したものが、今回収録されるものになります。つまり、今回のものは“新生16ビット版”と言えるものですね。
旧16ビット版から32ビット版になって、横画面だったものが縦画面構成になり、ビジュアル、サウンド、エフェクトがさらに強化されたんですが、その過程で松島さんが旧16ビット版では気に入らなかったところを省いたり、さらに新しい要素を追加したりしてあるんですよ。それをベースに新たに16ビット版としてもう1度作ったのが、新生16ビット版ということになりますね。
――横→縦→横画面向けに新たに作り直した、ということですか?
松岡氏: そうなりますね。
堀井氏: 旧16ビット版を作ったときのリソース(プログラム、ビジュアル、サウンドデータなど)があって、それにさらに32ビット版仕様に手を入れて置き換えていくという。さらにVDP(Video Display Processor)を今回の「龍が如く0」の基本無料アプリのターゲットハードと近いものに入れ替えていくという作業でしたね。旧版と新版はそもそもが違うものですね。リソースは同じですが。
――2014年のお盆ごろに話が出て、実際の作業はいつぐらいから始まったんですか?
堀井氏: GOが出たのは9月ごろですね。
松岡氏: そのころは旧16ビット版を32ビット版から化粧直しをする形で、新16ビット版の作業がスタートしていました。その後、バージョンが上がるたびにじわじわと新16ビット版の原型が出来上がっていったという感じですね。
堀井氏: 最初は、PS Vitaへの移植は置いて、まずゲームを完成させようと。松島さんが32ビット版を新16ビット版にする作業を延々とやっていました。その都合で、セガさんには新16ビット版の画面がなかなか出せなくて、2014年内はそんな状態でした。
それというのも、彼にもちょっと思うところがあったらしくて……。
――というのは?
堀井氏: これまでのお仕事で、自分が不本意な状態でマスターアップという形にされて、商品としてリリースされたことがあったようなんですよ。それがあったからか、今回は「画面の表示までは最後までいかないと作らない」と言ってたんですよね。
――それが今回のやり方だと。
堀井氏: 「動いていると見られると、そのままマスターにされちゃう」からという。「動いてたら出ちゃうから」と。
――3~4ヶ月はゲームの作りこみをされて、そのあと一気にPS Vitaで動くように持っていったという感じなんですかね?
松岡氏: そうですね。3週間ぐらいで移植完了という。
――すさまじい! エムツーさんは9月からサポートをずっと続けていたと。
松岡氏: どうやら、松島さんは、実際にPS Vitaへの移植を始めるまで、ずっとPS Vita向けの開発資料を読んでいたみたいですね。彼のすごいところは、マニュアルを読んだらわかってしまう、というところなんですよ。「あたりまえやん!」って思うかもしれませんが、意外とできないことなんですよね。
堀井氏: Dr.宮永(宮永好道氏:元シャープの顧問でTV番組『パソコンサンデー』などに登場)の立場ないじゃん! 「習うより慣れろ」だろという……(一同笑)。
――これはイメージですが、マニュアルを読んで理解したら、実際にサンプルコードを書いてみて、「ああ、こういう動きになるんだ」って慣れていってから、ようやっと本番のコードを書いていくものなんじゃないんですか? トライ&エラーで慣れていくというか。
松岡氏: 彼にもそういう部分はある、と言っていましたが……「機械のクセがあるから、それはどうしようもない」と。それ以外のところは大丈夫みたいですね。
――そこが凡人と違うところなのかなと。
松岡氏: 彼と同じ職場にいたころですが、アセンブラからいよいよC言語に移行するという時期に、社内で他のプログラマと会話しているのを聞いていたら、「もう大丈夫! 土日でC言語の本を読んだから、何でも組める」って言ってました(笑)。実際すぐに組んでましたしね。「絶対頭おかしい」って思ってました(一同笑)。
堀井氏: それってセガサターンの頃?
松岡氏: 終わりぐらいかなー。サターンは最後までアセンブラで組んでましたから。
――あのクセモノと言われるハードをアセンブラで……。
松岡氏: サターンでの開発では、「バーチャファイター2」の頃のライブラリを皆さん使われていたと思うんですが、当時、ゲームのるつぼでは最後までアセンブラでやっていて、「あの開発キット、使ってみたかったね」って言ってましたから。
――聞いたことがあります。あのライブラリのおかげで劇的にソフトの質が上がった気がするんですよ。
松岡氏: 松島さんたちは、サターンのソフトの開発をX68000でやってましたからね。MC68000でコードを書いてサターンに移して……。全員そうしてました。
――なんと……。「ベルーガ」の16ビット版、32ビット版という話ですが、この2つに関してのターゲットハードは実在するプラットフォームがあるんですかね?
堀井氏: 公言はしていませんが、16ビット版はパレットが4本、BGが2枚とか。実在した16ビットハードのVDPを想定して作られていますね。サウンド周りのスペックはちょっと違う。
松岡氏: 横にスプライトが20枚並ぶと消えてしまう、とか。新版でも同じように消えますから。もっと時間があれば、プログラムも実在のマシンで動く形で記述することはできたかもしれません……が、松島さん本人は、「いまさらあのCPU向けのアセンブラで書くのはめんどくさい」(一同笑)って言ってました。
――こうしてお話をうかがっていると、なんだかエムツーさんの「ファンタジーゾーンII(システム16版)」(「システムE」でリリースされた『ファンタジーゾーンII』を当時のハイスペックアーケード基板『システム16』向けに再構築した)を想起させる話ですね。
松岡氏: そうですね。
――開発環境的に今のスタイルでやろうとすると、当時のハード向けにプログラムを書くこと自体、「ファンタジーゾーンII」のシステム16版のように、メモリの制約等があって難しいんですか?
堀井氏: もちろんそうですね。
松岡氏: かなり制約がありますし。
――ターゲットCPUとサウンドは実在のマシンとちょっと違うという話ですけれども。
堀井氏: 松島さんとしては、「当時のCPUでもまあ、動くよね」というレベルでプログラムされていたようです。サウンドに関しては、弊社の並木(学氏)が聞いたところ、当時のマシンのサウンドスペックでも再現できるものになっていますね。
松岡氏: FM音源が4音、PSG音源が3音、それとPCMでBGMを、それとFM音源とPSG音源1音が効果音のためにリザーブされている、みたいな話をしていましたね。そういう縛りで作ってあって。
堀井氏: サウンドエミュレーションはしていないということですけれども、実機向けに移植は可能、というレベルですね。
松岡氏: メガドライブの「アフターバーナーII」では、1音しか無いPCM音源を3音鳴らしたりしてました。今回もそういう技術を駆使していると見て間違い無いでしょうね。
――今回のPS Vita版ではOS層から上にクッションが挟まって動いているけれども、持って行こうとすれば実在の16ビットマシン向けの移植は可能、という。
松岡氏: 時間があったらそこまでやっていたかもしれませんね(一同笑)。
堀井氏: 本当に時間がなかったんですよね。
――松島さんは今回、PS Vita向けの開発は初めてだったんですよね?
松岡氏: はい。
堀井氏: どんなハードかも知らない、というところからのスタートでしたね。「絵が出るまでどれぐらいかかるかわからないよ」って言われましたね。実際、2015年明けまで絵は出てきませんでしたよ(笑)!
松岡氏: そうですね。最初、「基本無理!」って彼は言ってたんですよ。それを聞いたうちのプログラマが燃え上がりまして(笑)、石倉というプログラマが「だったら俺がやるわ」って言い出して。そこから3日ほどでPS Vitaで動く16ビット版ができてきました。彼も彼でちょっと異能のプログラマなんですが。
それを聞いた松島さんが「なんでー!(動いたの?)」って。
――なんとまあ! そんなやり取りが。今回、エムツーさんと松島さんの実作業での組み方というのはどうだったんですか?
松岡氏: Vitaで動かすためのベース部分をうちでまず作りまして、それをサンプルとして松島さんにお渡しして、そのサンプル上で仮の形で「ベルーガ」を動かしてから、そのベース部分も松島さんの方でさらに組み直したという形ですね。
堀井氏: 1回、うちで道を舗装したら、それを見た松島さんが「ああ、こうやってやるのね」ってその舗装部分をはがして、また自分で舗装するという……そんな感じですよね。
――エムツーさんは、PS Vitaでの制作は?
堀井氏: 「スペランカーコレクション」で一度手がけていましたが、今回「ベルーガ」に関わったスタッフは、それまでほとんどPS Vitaには触っていなかったですね。
松岡氏: 石倉さんがちょっと触っていたぐらいですかね。いつもなら、うちのツールをPS Vita向けに移植してから作るんですが、その黄金パターンは今回使えなかったんですよね。松島さん向けにサンプルとして作ったので。
堀井氏: うちのライブラリを使えば、特にPS Vitaを知らなくても動く、というところまでは作れるんですけれども。今回はうちのサンプルを見て、松島さんが「俺はこう書く!」とさらに舗装しなおして……。あとは基本無料アプリ本体とのやりとりの部分をうちで作ったという感じで。不思議なやり方ですね。
松岡氏: うちのシステムの上に、松島さんのシステムを乗せて、さらに「ベルーガ」を載せるとスピードが……という恐怖もありました。さすがに重いだろうと予想できたので。期間が短かったので、後で取り返しが付かないようなやり方はできなかった。
堀井氏: 松島さんなら下地から作れますからね。
松岡氏: ただ、うちのソースを読んで、彼がイチから作ってくるとまでは思っていませんでしたが(笑)。作っちゃうからすごいんだよなー。
――今回、「ベルーガ」16ビット版に関わっているスタッフは総勢で何名ぐらいになったんですか?
松岡氏: 松島さんの話を聞くかぎりでは、プログラムではヘルプで入った方が2名おられるようです。ヘルプで入っていただいた方のおかげで時間に余裕ができて、さらにエフェクトが追加されたりしたので……。それと、ビジュアル、サウンドもすべて松島さん側(のスタッフ)で制作されています。
私から見て、一番手がかかるだろうなと思ったのは、32ビット版のデータを16ビット版に落とし込むというところだったんですよ。先ほども申し上げましたが、32ビット版はレゾリューション(解像度)がそれまでのバージョンと違って縦画面になっているので(敵配置や弾のスピードなどすべてやり直す必要がある)。そこを担当してくださった方=先ほどヘルプで入ってくださった方が16ビット版へ開発ツールも移植してくださって。それで開発がスムーズにいったので、開発終盤にエフェクトがドカンと増えましたね。
それに加えて、さらに末期も末期に、ヘルプの方のおかげで秘密のステージが完成しまして、うひょースゲー!って思いましたがマスターまでの残日数が3日しかなかったので組み込みは見送っていただきました。元々仕様に書いてあったステージなので入れたかったんですけどね。
堀井氏: 最初に「この要素は時間がなかったら切ろう(カットしよう)」という話になっていたんですが、最後の最後に作ってくださったんですけれども。
――さすがにチェックできないものを製品としては入れられないですよね。
松岡氏: メチャクチャ悩みました。ある条件をクリアしたら行けるステージですよ、そこではスコアをじゃんじゃん稼げるわけですよ。21世紀だというのに。それはもう、入れたかった。隠しステージ殺しの犯人は松岡です。すんません。
――それにしても、32ビット版までも含めて7年もの間、モチベーションの維持や作り直しなどの過程を経ていると考えると、すさまじいものを感じますね。個人でやっているにしても、そこまでの話はなかなか聞いたことがありません。
松岡氏: どうやら、他の仕事をやりながら、個人でコツコツ進めていったみたいですね。まるで手塚治虫の「火の鳥」みたいな状態だと思いました。
――堀井さんや松岡さんは、「ベルーガ」を見て、どのあたりがすごいと思われたんですか?
松岡氏: 「松島さん今も元気にゲーム作ってて偉いなあ」というのと「パピコン(PC-6001の愛称)やん!」というのが同時にきました。
堀井氏: 僕は、2007年の時点で、PC-6001で好き勝手できるレベルで、松島さんがソフトを作っていることにびっくりしたと同時に、16ビット版を見たときは、ゲームの本質は変わっていないのに……骨の部分は変わっていないのに、遊びの幅が広がっていることに驚きましたね。
――近年、プログラマが1人立ってゲームを作るというスタイルって、それほどないんじゃないのかな、という気がしたんですよ。それこそパソコンの時代は、スタープログラマという存在がいっぱいいらっしゃって、プログラマの名がゲームタイトルに入っていたりしましたが。
堀井氏: 最近聞かないですよね。
――プログラマもパートわけして分業、というイメージなんですけれども……。PC-6001関連を追いかけ続けている人や、X68000などを通ってきた方々なら松島さんといえば「タイニーゼビウス」や「スペースハリアー」、X68000の「スペースハリアー」などでお名前を知ってらっしゃるでしょうから、「おおっ」って思われると同時に、今回の作業スタイルも松島さんだから……と納得されると思うのですが。
堀井氏: 32ビット版までありますから、この「ベルーガ」の規模はかなりのものになってますよね。ビジュアルやサウンドは分業されてますけれども。
――骨となる部分は共通項はあるとしても、違ったハード向けにもっていくこと自体が……マシンパワーが上がればやりたいことも増えていくでしょうし、別のものになっちゃう可能性もありますし……そういった意味では、8ビット版 の時点から、しっかりした設計思想やゲームの根幹部分に骨がないと、なかなかバージョンアップも難しいのではないか、と思います。簡単ではないし、そういった部分が松島さんのすさまじさなのかな、と勝手に考えています。
堀井氏: 松島さんが、自分のために組んだシステムっていうものがあるのだろうな、と僕は思いますね。今回移植版が難航した話をしましたけれども、一度動いてしまえばその後は楽勝だったので……。もしかすると同じシステム上で別のものを作ったら、またあっさり動いてしまうんじゃないかという気がしています。
――マイコンソフトの藤岡 忠さん(なにわさん)から、松島さんについて、「コードを書いたらほとんどバグなしで動いていた」という話を伺った記憶があるんですが……。
堀井氏: 私も、別の方ですが、やはり松島さんについて、「ハードが完成していないのに、ゲームが完成しているんだよね」という話をされていたことがあって。「仕様が決まっていれば、もうコレで動くから」という話をされて、びっくりしたことがあります。
――それってあまり聞かない話ですよね。ハードウェアが要求仕様どおりになっていれば、先に完成しているソフトが動いてしまうという。すごいなあ。
新しいし、懐かしい……「ゲームを遊んで欲しい」というメッセージ
――「龍が如く0」のコンパニオンアプリということで、本編の時代設定を活かしたタイトルということで収録されたと思うのですが、あの年代のロボットシューティングタイトルとして捉えても、まさに狙ったかのようなゲーム内容ですよね。それまでは地上、空中関係なく同じ攻撃手段というシューティングが主流で、さらに多関節ロボットゲームが出る前、という2つの流れの中間的立ち位置というか。丁度いい年代感ですよね。
堀井氏: そこまで考えて制作されていたのかはわかりませんが、結果としてはそうなりましたよね。
――8ビット版も、その年代当時に作られていたのかを考えると、方向キー+攻撃キーであれだけ多彩な攻撃が出せる、というものを当時作ることができたのか? という話になると、ちょっとわかりませんが……。ただ、それが16ビット版を見ると、「ああ、この年代ならあったかもしれないな」と思える。斜め入力を家庭用ゲームハードで標準入力にしてしまうのはリスキーかなと思いましたが。
パワーアップ要素の少ない、方向+攻撃ボタン、さらに地上と空中での状態変化で攻撃種別が変わるというのは、いろんなゲームが過渡期であったあの時代にはぴったり来るというか。
松岡氏: 自機がロボットであることをうまいこと利用したゲームといえば、当時ではゲームアーツの「テグザー」なんかがありますが、でもまあ、全然違うゲームですよね。
――空中では下に攻撃できないし、地上ではノーマルショットでは真正面がガラ空きになったりと、使い分けを考えてプレイしてほしい、という考えも見えたり。とはいえ「縛り」的な強制されている感覚はないし、パワーアップも1段階ですから、リスタートしても復活は楽ですし。弾を避けて攻撃する、というあの時代のゲームっぽいな、という。
空中では水平方向にしか攻撃できない。
地上のノーマルショットは対空用で斜め上に飛ぶ。
その時代の後にリリースされているロボットゲームになると、ショットが多方向に撃てて、地上にいようが空中にいようが好きな方向に攻撃できるあたり、ゲーム性が変わっていきますよね。
堀井氏: そうですね。
――演出面なども、セリフやステージ名などの紹介は最低限でテンポがよくて、爆発シーンなどはド派手にしつつ、かつクイックで。その後のロボットゲームではもっとアニメよりというか、ドラマの演出に力が入っていった印象なので、 まさに過渡期的なものを感じさせますよね。
松岡氏: あの人、文章もうまいんですよね。ほっといたら松本零士の「戦場まんがシリーズ」みたいな男臭いポエムをいくらでも量産してくる。どのポエムもむちゃくちゃおもしろいので、いずれ表に出してほしいところです。
堀井氏: ローカライズするときに引っかかるだけだよね。
松岡氏: 特に思うのは、「アーケードゲーム臭い」んですよね。コンシューマーっぽくない。
――ロボットゲームなんですが、テンポはアーケードのシューティングゲームのそれなんですよ。敵の種類も絞られていて、組み合わせや出現タイミングなどでテンポや難易度の調整されているのかな、という気がしました。遊びの種類も組み合わせのバリエーションでメリハリを作られている。
松岡氏: ステージを増やす=「リソースを増やさなきゃ」みたいな脅迫観念が感じられないですよね。
堀井氏: 昔なら、見た目はパレットを変えるだけで、動きを変えて別のキャラクターに仕立てたりといったこともありましたしね。そこまで極端ではないですが、組み合わせを変えるだけで別のものを作るという考えはあるかもしれませんね。ラスボスとか。
松岡氏: 手間の割には効果の高い方法ですね。
――見せ方もメリハリというか、独特のインパクトを感じますね。ロボットのミスとか。やられたら、爆発が重なって……といったものが多い気がしますが、「ベルーガ」では光が一閃して「ドカーン」と。最初は「なにこれ?」ってなると思うんですよ。
特徴的な自機の爆発シーン。
キラっとラインが入って動きが停止し、その後派手な爆発となる。
松岡氏: ここぞ、というところを見つけてしっかり作ってあるんですよね。演出にすごく力が入っているところ=何度も見るところ、なんですよね。
堀井氏: ああー。
松岡氏: そこは飽きがこないようにしっかり作ると。
――自機のミスも、ボスの爆発も、それまでの流れとはまったく違うというか、キャッチーですね。テンポとしては早いんだけれど、しっかり魅せるというか。
松岡氏: 関西人のしつこさかもしれません。コテコテの関西人なので。
――なるほど! 爆発演出を見ていて思い出したのは、「ダライアスII」の核爆発と、「ダライアス外伝」のブラックホールボンバーやボスキャラの爆発ですかね。
堀井氏: それはわかりますね。
――「どこかで見たな」と思いつつも。
松岡氏: ボスの爆発は「タイムボカン」シリーズなんですよね。
堀井氏: そうだねー。
――フラッシュが入ってキノコ雲という、あの感覚ですね(笑)。
堀井氏: 16ビット版を見てもらえれば、「あれがこうなったかー」って笑ってもらえるでしょうし、そうでなくても「あそこまでやらなくてもいいじゃん(笑)」って。
松岡氏: 8ビット版でも「ここまでやるか!」って笑いましたしね。16ビット版でも爆発がくどいんですよ(笑)。「ベルーガ」の演出をくどくするためだけに、世のコンピューターはもっと進化するべきなんですよ(笑)。32ビット、64ビット、128ビット版と……進めば進むほど(一同笑)。
――それと、難易度の付け方というかなんというか。個人的に思い出したのは、「ザナック」かなあ……。ノーミスで進んでいくと難易度が上がっていって、ミスしたりステージクリアで難易度が下がるというシステムも入ってますよね。
堀井氏: どんどん難易度が上がっていきますね。「ゼビウス」とかもそうですが。
松岡氏: やっぱり影響を受けているのはナムコのタイトルなのかな、と思いますね。
堀井氏: エクステンドのスコアあたりもそうですね。
――先に進むとスタートステージが選べるようになりますが、コンティニューが付いていないあたりもなんだか懐かしい感じでした。
コンティニューがない代わり、再スタート時にリカバーアイテムが出たり、シールド(右)が出る。
松岡氏: 「コンティニューはなしにしたい」とは言っていました。その代わり、再スタート時にリカバーアイテムが出たり、シールドが出たりします。「あまりにもクリアできない人ができない可能性が出てきてしまう」と話をしたら、入れてもらえました。元々そういう話があったのかもしれませんが。
堀井氏: 「スペースハリアー」のX68000版とかを思い出す調整ですよね。
――ああいう作りを見ていると、松島さんとしては、昔からのポリシーなのかもしれませんが、当時のゲームっぽいですよね。たとえコンティニューが付いても3回まで、とかになりそうな。
普通にプレイしていると、人によってはスルーして気が付かずに終わっちゃう、という要素がいろいろあって。ともすれば「あたりまえ」、人にとっては「なにこれ?」というところがいろいろと。
それを振り返ってみると、「あの当時ならこうだよね」とか、そういうことを思い出させてくれるタイトルになっている気がするんですよ。
松岡氏: ロストテクノロジーが割と入っているという。
堀井氏: 今となっては誰もやらないことをやられているという。
――それがタイトルが発表されて、みなさんが「『ベルーガ』がすごい」という話をされていた部分なのかなと思うんですよね。
堀井氏: おじさんの心を「キャッチ・ザ・ハート」ですよね(一同笑)。
松岡氏: このゲーム、このインタビューで話題になっているような「入っているこの要素、俺はわかる!」と人に話したくなるんですよ。「俺は忘れてないぞ」とアピールしたくなるというか。「あるあるネタ」になっているんですよね。
――細かいところにいろいろ目が行ってしまうというか、気になるんですよね。そこが不思議な感覚です。当時の感覚をPS Vitaという新しいハードの上で構築されているというのが。
松岡氏: 例えば、シューティングゲームって、どんどん敵が多くなって、どんどん弾が多くなって……と進んでいきましたよね。このゲームはそうなっていない。ゲームを難しくするための進化としては、初代「グラディウス」のあたりの感覚で止めているんですよね。
堀井氏: 自機の移動速度は遅いしね。
松岡氏: それを遅く感じさせないのは、ゲームスタート時はそれよりもさらに敵弾が遅いからなんですよね。「ベルーガ」は目の前で撃たれても、弾を見てから避けて間に合う。それぐらい敵弾が遅い。めちゃくちゃ敵弾が遅いゲームというのはテレビゲームの黎明期には多数あったんです。「ゼビウス」あたりが割と近い感覚ですよね。
――それで自機の遅さも理解するし。「ベルーガ」の16ビット版の感覚でいうと、「ドラゴンスピリット」の旧バージョンぐらいの感覚なんですかね。ギリギリ避けられる、撃ってきた弾を見て避けることができるという感じ。
松岡氏: また「ベルーガ」は難易度上昇のカーブが絶妙だから、反射神経が鈍い人でもじわじわとついていくことができます。ミスした時に「なんで死んだか」がよくわかるゲームになっています。それと同時に、うまい人はノーミスクリアを目指して遊べるようにできている。
――バックできたりすることで、スクロールを調節することもできたりするあたりも……。前進は早くて、後退が遅いとか。こういったタイプのゲームもなくなっていきましたよね。
松岡氏: 「ベルーガ」の場合はスクロールを自分で制御できるんですよね。
――スクロール速度が固定の多方向へ移動できるなら「テグザー」なんだろうけど。
堀井氏: これはちょっと止まって、ちょっと進んで、ちょっと下がって……と。
――ああー。そういう感覚のタイトルって、気が付いたら少なくなりましたね。
松岡氏: 強制スクロールなのにプレイヤーが制御できるのは新鮮なんですが、でもなつかしさもかなり強いんですよね。
――こんな話をつい、してしまうのが「ベルーガ」なんですね。プレイしたときに、ちょっとした挙動やプレイ感覚から、ともすればスルーしてしまいそうなところに私みたいなおっさんが反応してしまう……。
松岡氏: それはもう、どんどん反応してしまいます(笑)。
――ただ、プレイ感覚は古臭くはないんですよね。
堀井氏: 今十分に遊べるもので、新作であるという。遊び飽きていないのに、古い作りだったりする。
――初見殺しの仕掛けはほぼないし、説明も最低限されていますし。アドリブで何とかなるときもあるし。……うーん。
松岡氏: あー思い出した!X68000の「A-JAX」も、ちょっとだけバックできましたね(一同笑)。
――あー! オリジナルの縦画面と同じ分描画されているのに、画面比率が違うから隠れている部分に行こうとするとあの「ガクッ」としたスクロールがあるという。……なるほど。あの感覚は近いかもしれませんね。
堀井氏: 違う(笑)!
松岡氏: ちゃんとした「これ!」ってタイトルを思い出そうとすると、あの「A-JAX」が邪魔をする(一同笑)。
――ガンシューティング、「戦場の絆」など新しいハードにもきちんと対応していきながら、こういったタイトルを作ることができるのが、松島さんのすごいところなのかもしれないですね。
堀井氏: ゲームというものに対して、言い方はこれで正しいのかわからないですが、かなり狭く、今のレベルでは許されないレベルで細かく定義していますよね。趣味系の高いものではそれが爆発するのではないかと。「ベルーガ」にはそれが顕著に見られます。
――もうひとつ興味深かったのは、敵キャラと接触してもミスにならない、という点ですね。「レイノス」もそうでしたが、その前の時代設定ということになると、かなり異質なイメージです。空中物、地上物関わりなく、接触しても大丈夫という。当時からすれば接触=ミスだったと思ったので。そのおかげで、単純に敵キャラ=邪魔という存在にはなっていない。
堀井氏: 邪魔にはなっていないですね。
地上建造物は空中状態でのショットでは破壊できず(アームパンチのみ可能)、遮蔽物となる。
――その代わりに、地上物はアームパンチやボム、ナパームでしか破壊できずに居所が制限されたり、こちらの攻撃が遮断されたりする。そこも単なるシューティングの地形でのプレーヤーへのプレッシャーのかけ方とも違う作りになっていて。うまく作られているなと。
松岡氏: 察しがよければ初見でも切り抜けられる作りですよね。
――単なる地形ゲー、覚えゲーにはなっていないんです。理不尽にやられることはほとんどなかったと思います。自分の腕を呪うことはあっても……。
堀井氏: 「できるはずなんだけどなー」って思いながら死ぬんです(笑)。
――逆に、東亜プランのゲームのように、敵に接近したら弾を撃たない、というのとも違いますし。
堀井氏: 敵がいつ弾を吐いてくるかわからないから、接触してもミスにならないといいつつ、敵に近づくのはリスキーなんですよね。
敵拠点入口の防御バリアは、アームパンチでわずかな時間開くことができる。また、防御システムの心臓部もアームパンチでのみ、とどめが刺せる。
――アームパンチも、攻撃以外にも敵弾を消せるという能力があったり、リーチが決まっていてボタン押し→離しという操作系もあって連射がしづらい、使うと戻ってくるまでがスキになっているとか、自機の高度に合わせて動くとか、いろいろ考えられた使い勝手になってますよね。
斜めに連続で吐く「歩行体(対空型)」とかには、弾を相殺してしまうだけで本体に当たりづらかったり、しゃがんでアームパンチの高さにならない「歩行体」がいたり。そういうところのいやらしさが計算されていて。地形の高さも……。
堀井氏: きっちりやってますよね。
――そこにこちらは「ムカッ」としながら考えをめぐらせてプレイしているんです。「いいなあ」って思いながら。制作側の「こういうシチュエーションだけど、あなたはどうする?」という石の投げ方というか。
堀井氏: 石の投げ方(笑)。まさに。
松岡氏: プレイしていると、そういうことに気づくタイミングがあるんですよね。
――地上にいると正面への攻撃が薄くなるから、空中に行ってショットを連射したいんだけれども、場面によっては狭くなってすぐ着地しちゃう。だったらちゃんと地に足をつけて腰を据えて攻撃の準備をしなくちゃ……って思ったら、今度は上から攻撃が来て……なんて振り回し方とか、わくわくします。同時にムカムカしてるんですが(笑)。
松岡氏: そうしてイライラしてたりするときが楽しいんですよね。
――自機と敵セットや地形をうまく使って、プレイヤーに上手に負荷をかけているんですよね。
堀井氏&松岡氏: そうですねー。
――16ビット版は、8ビット版の「PC-6001でこんなロボットシューティングが作られたんだ、遊べるんだ」という衝撃とはまたちょっと違った驚きが感じられますね。
堀井氏: 8ビット版は、当時ゲームを作っていた内藤(時浩:エムツー所属のクリエイター。かつてT&Eソフトで「ハイドライド」などを制作)さんですら、当時作られていたものだと最初は勘違いするほどでしたからねー。あってもおかしくないという。
松岡氏: でも、当時はゲームとしての体裁としてまとめることがまず最優先だった時代ですよね。
堀井氏: よくスクロールしてますよ、って言っちゃう。
松岡氏: だから「ベルーガ」の8ビット版は「どう遊ばせるか」というところまでちゃんと作られていて、「当時っぽくない」っていう方の意見もわかりますね。
堀井氏: 動いているだけですごい、という時代ではありましたからね。松島さんの「タイニーゼビウス」や「スペースハリアー」が衝撃作だったこともうなずけるというか。
――8ビット版で、あんなにでかい爆発を出そうなんて当時思ってなかったかもしれません。サウンドも、8ビット版ってPC-6001で再現できるのかな? ってレベルですし。
堀井氏: そうですね。高速に音を切り替えて和音っぽくするといったテクニックとか……。
松岡氏: 爆発とか、スコアとか、難易度曲線とか、プレイヤーの行動に対する「返答」に力を入れていますよね。
堀井氏: 松島さんが言いたいのは、「ゲームを遊んでくれよ!」ということなんでしょうね。
松岡氏: その言葉は開発中に幾度となく聞きましたね。「コンティニュー入れてよ」って話をしたら、「それってゲームじゃなくなるよね」と。
堀井氏: (コンティニューをつけて)「一通りクリアしちゃったら、それで終わりになっちゃうでしょ」と。
――プレイする、どこかでミスしてひっかかる、またゲームを遊んで突破する、新たなひっかかりができる……という繰り返しでゲームを遊ぶことでプレイヤーさんの記憶にも残っていく。コンティニューを連続してできるようにしてしまうと、そういった巻き戻しの過程がなくなるから、印象も薄くなっちゃうという。
松岡氏: 「俺は死んでない、でも敵は殺した」ということの繰り返しがゲームですからね。
――そういうことを明言することも今や少なくなりましたよね。
松岡氏: 僕もそれを松島さんに言われて「あ、今こういうことを言う人がいるんだ」と思いました。
堀井氏: 「あ、今これを言っていいんだ」と思いましたね。
――おお……。そういえば、ベルーガが突っ込んでいって敵を倒す、というあの設定ってどこから来たんでしょうかね? バリアをプレーヤーに破壊させる、そしてボスキャラを倒してベルーガを特攻させるという流れは、いろんな意味での制約から生まれたのか、それとも別の理由があるのか……。
心臓部を破壊すると敵拠点の防御が解かれ、飛行爆弾と化したベルーガが拠点本体に体当たりしてステージクリア。
堀井氏: そうですね。あれは……。
――すごいインパクトですよね。それと、16ビット版でタイトルに追加された「SF」には、どんな意味があるんでしょうか?
松岡氏: 松島さん、本当に昔っからSFの世界観や映像が大好きな人なので。
――「サイエンス・フィクション」の額面どおりの意味なんですね。
松岡氏: 怪しいSFテレビドラマや映画が当時いっぱいありましたよね。ああいう風な世界観がすごく好きで。「ベルーガ」のテーマも「UFOの恐怖」ですからね。
堀井氏: 僕らが子供の頃の恐怖番組とか、そういった世界ですよね。「宇宙人は本当にいる」とか……。
なつかしいUFOが多数登場。
――ゲームにもああいったUFOって昔はいっぱい出てたんですけれどね。近年だとXbox 360の「エスカトス」とかで久々に見た気がします。
松岡氏: 「UFO」や「宇宙人」とかも、時代とともに消費されて一種のギャグにされ、消えていきましたが、それ以前の時代に引き戻している感じはします。未知の物体へのわくわく感のある時代にです。
――周りは一周してきたけれども、と。
松岡氏: 彼は消費し尽くしていないんだと思います。だから簡単に「お笑い」にはしない。当時を知ってると笑っちゃうんですけどね。笑わせようとしているのか、笑ったら怒るのかは分からないので本人には言いませんが、いまどき「UFOの恐怖」とか、真正面から言われたら、まあ笑ってしまいます。
――人がさらわれるシチュエーションとか作りたかったんですかね?
エフェクトが強化された友軍ヘリコプター救出シーン。
松岡氏: それがヘリコプターが掴まっているというシーンに反映されているのではないかと。
――なるほどなー。掴まりっぷりがハンパないですね(笑)。
松岡氏: 16ビット版では電磁波のようなもので掴まっているビジュアルになりました。8ビット版にはなかった。
――(笑)。いろいろ追加されていますよね。今回、すごいタッグで「ベルーガ」が出来上がってきたわけですが、開発を振り返ってみていかがですか?
堀井氏: 「ベルーガ」の16ビット版がこうして世に出ること自体がかなりびっくりなことなので。
松岡氏: そういった意味では、社長のラッセル車のように前に突き進んでいく性格には助けられましたからね。
堀井氏: 2015年の正月は本当につらかったからね……。「できるのかなー? できないかなー?」って。
松岡氏: 正月はつらかったですね。9割9分「できない」って思ってたので。「できなかったらどうしよう?」って考えてましたから。
堀井氏: セガの伊東さんもすごくサポートしてくださって、スタッフクレジットに松島さんの名前とご自分の名前が並んでいるのに感激してらっしゃいましたからね。
――本当にこだわってらっしゃったんですね! そうして生まれてきたのが「ベルーガ」の新16ビット版なんですね。まだまだ自分にはわからないすごさがいろんなところにちりばめられていそうですが。
松岡氏: たぶん、このゲームの本質は今後も松島さん以外には誰にも捉えられないままなのかもしれません。そういう意味では、松島さんという存在自体が、UFOのような存在なのかもしれませんね。我々はUFO特番に出てくるノースカロライナ州の農夫みたいなもので、「あっちの空をジグザグに飛んでいった!」って言ってるような(一同笑)。
堀井氏: そうかもしれない(笑)。目撃者なのかも。
――そんな松島さんという存在と交信できるのが松岡さんなのかもしれない……(この後しばらくUFO談義が続く)。
それにしても、いろんなことを思い出させてくれる不思議な1作、という感じです。
各所に仕掛けられているボーナスを探し出す楽しみも。
松岡氏: 提供する側としては、それと同時に何も考えずに遊んでほしいんです。「これはこうなんじゃないか、ああなんじゃないか」ということはいったん脇において、ゲームをクリアする、ノーコンティニューやノーミスクリアといったプレイを目指して欲しい。ボーナス得点もいろいろ仕込んでありますので、探して欲しいですし。ゲームを夢中になって遊んでいた時代に戻ることのできるゲームのはずなので。
堀井氏: ぜひ「プレイヤー」として遊んで欲しいですね。所有するという意味での「ユーザー」ではなく。そんなタイトルです。
――ありがとうございました。
(聞き手・構成 佐伯憲司)
「龍が如く0 誓いの場所」メインプログラマーの伊東です。
一時はどうなることかと思いましたが、「SF特攻空母ベルーガ(16ビット版)」を無事に本日配信することができて、正直ほっとしています。
ここまでの経緯は堀井さんがお話しされている通りで、きっかけは完全に私の個人的な趣味からでした。 今から30年以上前、私が小学生の頃にお年玉を貯めて買った初めてのパソコンが「PC-6001mkII」という機種だったのですが、当時発表された「タイニーゼビウス」の衝撃は、私にとって、とてつもなく大きなものでした。 技術的な部分はもちろんですが、自分とそれほど年齢も変わらないたった一人の中学生が開発したということも衝撃的で、それまで以上に必死にプログラムを学ぶようになったことを覚えています。 その時から、スーパープログラマー「T.MATSUSHIMA」の名は、私の心の中に深く刻まれ、憧れと尊敬の存在となったのでした。
実は今でも、当時のPC-6001ユーザーは精力的に活動していて、私もよくオフ会などには参加させてもらっているのですが、そこで「ベルーガ16ビット版」を見せてもらう機会がありました。 とても趣味で作ったとは思えないクオリティーで、しかもあの松島さんが直接プログラムされていると聞き、これをなんとか世に出すということが、私のゲームクリエイター人生の目標の一つとなりました。
そして今日、ついにその夢が叶いました。
本編の舞台が80年代だったこと、エムツーさんとお仕事をさせていただいたこと、堀井さんがベルーガをご存知だったこと…色々な偶然が重なって、奇跡的に、この素晴らしいゲームを世に出すことができたと思います。 ご尽力くださった堀井さん、松岡さん、本当にありがとうございました。また、こういう無茶な企画を通してくれた会社にも感謝したいです。 ただ、実は松島さんとはまだ直接お会いしていないので、いつか関西まで襲来…ではなく、ご挨拶に伺いたいと思っています。
最後になりますが、ベルーガをきっかけに「龍が如く」に興味を持っていただけた方は、ぜひ、12日に発売される本編もプレイしてみてくださいね!
株式会社セガ 第一CS研究開発部 第一プログラムセクション
セクションマネージャー 伊東 豊 氏